脳梗塞とは
脳梗塞は、脳の血管が詰まり、血液と酸素の供給が停止し、その結果、血流が途絶えた部分の脳細胞が死滅する疾患です。死滅した脳細胞は回復不可能であり、その脳細胞の果たしていた神経機能が喪失します。
脳梗塞の発症には2つの主なパターンがあります。一つは脳血栓症(アテローム血栓性脳梗塞)で、動脈硬化によって徐々に血管が狭くなり、循環が悪化することによって発症します。もう一つは心臓の不整脈などにより別の場所で血栓が飛んできて起こる脳塞栓症です。脳梗塞発症直前の状態として一過性脳虚血生発作というものがあります。一過性脳虚血発作では、一過性に片側の麻痺、しゃべりづらさ、血圧上昇などの症状が出現し自然と回復します。放置すると脳梗塞を発症する可能性があり、早期にMRIでの検査・診断とともに適切な治療が必要になります。
一過性脳虚血発作 (TIA:transient ischemic attack)
TIA(一過性脳虚血発作)とは、脳血管の狭窄や閉塞により局所的に脳血流が低下し、運動麻痺などの神経症状が出現し、血流が再開すると症状が改善する疾患です。TIAの原因は4種類の脳梗塞(心原性脳塞栓、アテローム血栓症、ラクナ梗塞、その他)と同じです。血流が再開しても症状は一時的に軽快するだけで、原因をきちんと治療しないとすぐに脳梗塞を発症し、後遺症として機能障害が残ることがあります。
脳梗塞の種類
心原性脳塞栓症
心臓の不整脈などに由来する血栓が血流に乗って脳血管を塞いだ状態です。その結果、閉塞は通常、血管の近位部で生じ、症状は深刻です。早期にMRIにて診断がついた場合、血栓溶解両方やカテーテルによる血栓除去術が可能な場合があります。また梗塞が広範囲に及ぶ場合、壊死した脳が腫れ上がることがあり、命に関わる脳ヘルニアを防ぐために開頭減圧手術が検討されます。心原性脳塞栓症の再発予防や治療として、抗凝固薬の投与が開始されることもあります。
アテローム血栓性脳梗塞
頸動脈や脳血管の動脈硬化に起因する脳梗塞です。治療としては、抗血栓薬が点滴または経口で投与されます。症状の進行が速い傾向があり、薬物治療にもかかわらず症状が悪化する場合は、外科的な血行再建手術が検討されます。
ラクナ梗塞
穿通枝という、脳の深層にある微小血管の変性によって引き起こされる脳梗塞です。この変性は、長期間にわたる生活習慣病によって発症します。治療の中心は、抗血小板薬の内服です。
その他の脳梗塞
異なる病態に応じて適切な治療が行われますが、標準的な治療法としては抗血栓療法と輸液管理が採用されています。
脳梗塞の原因
脳梗塞は、脳血管の動脈硬化や心臓不整脈などからの血栓による脳血管の閉塞により発症します。高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高尿酸血症などの生活習慣病や喫煙、飲酒などは動脈硬化や血栓のリスク要因となり、また心房細動という心臓不整脈も脳梗塞のリスクを高めます。
脳梗塞の前兆(初期症状)
症状は、脳卒中の程度や、脳のどの部分が損傷されたかによって変わります。
軽症の場合は、突然手足が麻痺したり、言葉が出なくなったりすることで気づきますが、重症の場合は、麻痺などの症状に加えて、意識がなくなったり、呼吸が乱れたりすることもあります。重篤な症状が疑われる場合は、ただちに救急医療機関を受診してください。
脳梗塞が疑われる場合は、頭部MRIなどの検査で診断し、併せて心電図や血液検査で患者様の身体の状態を評価します。
脳梗塞の検査
MRIは脳梗塞が疑われる場合に有効な検査です。脳梗塞を予見される症状が急に出現した際、MRI検査で特殊な変化を検出でき、その後の治療法の選択に役立ちます。また、脳梗塞ではなかった場合でも、MRI検査では造影剤を使わずに頭頸部の血管を調べることが可能なので、動脈硬化などで血管が狭くなっていることがわかれば、脳梗塞を予防するための治療を開始できます。
MRIは強い磁気を利用した検査機器です。そのため、体内に磁気の影響を受ける可能性のある器具や金属があると検査ができません。事前に安全性などの注意事項を厳重に確認いたします。
脳梗塞の治療
脳梗塞が軽症で症状も軽微な場合は、脳血流を改善するための点滴治療が中心となります。脳梗塞が進行し、太い脳血管を塞いでいる場合、脳梗塞の発症直後(4.5時間以内)であれば、血管を塞いでいる血栓を溶かす血栓溶解療法が行われます。ただし、発症後の時間が経過していたり、血栓溶解療法が効果を発揮しなかったりといった際には、カテーテルを使用して血栓を除去する血栓溶解療法や、血栓を取り除く手術が検討されることもあります。
症状は脳梗塞を起こした脳の部位によって判断されますが、これらの症状が後遺症として残らないように、脳梗塞の治療と並行して早期からリハビリテーションを行います。
薬物療法
脳梗塞の発症を予防するために、一般に血液をサラサラにする薬と言われる抗血小板薬や、抗凝固薬などが使用されます。これらの薬剤は脳梗塞の原因に応じて使い分けられたり、併用されたりします。同時に、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病を併発している場合には、それに対する適切な治療が重要になります。特に複数の疾患が同時に併発している場合には、より厳格な治療管理が必要とされます。
抗血小板薬
動脈硬化による血管の狭窄は血栓形成を促し、これが脳梗塞の誘因となります。このため、抗血小板薬を内服して血栓形成を抑制し、脳梗塞の予防を行います。従来、低用量のアスピリンが広く使用されていますが、クロピドグレルやシロスタゾールなどの薬剤も利用されています。近年ではプラスグレルも選択肢に加わり、患者様の状態に応じて使い分けられています。しかし、臨床研究の結果によれば、これらの薬剤を同時に内服しても予防効果は変わらず、かえって副作用のリスクが高まることが指摘されています。
抗凝固剤
心房細動などの不整脈により心臓内で血液が固まるリスクを軽減するため、抗凝固薬が使用されます。以前はワーファリンが主に使われていましたが、近年ではDOAC(直接経口抗凝固薬)と呼ばれる内服薬が広く用いられるようになりました。
降圧剤
高血圧の治療により、動脈硬化の進行を抑制し、脳卒中の再発を予防できることが確認されています。高血圧自体が動脈硬化を引き起こし、心臓に負担をかける可能性があるため、正常な血圧範囲内での管理が重要です。内服治療で血圧が正常に戻ったからといって、高血圧が完治したことを意味しないので、独自の判断で降圧剤の服用を中止するのは危険です。
スタチン系薬剤
高コレステロール血症の治療に使用される薬剤で、主にLDLコレステロールを低減させる効果があります。これにより、動脈硬化を抑制し、脳梗塞の発症リスクを軽減することが期待されます。通常は食事療法と併用して内服治療が行われます。
手術
経皮的脳血栓回収術(カテーテル治療)
大きな血管の急性閉塞による急激な症状を認めた場合、MRIで早期に診断が出来れば、カテーテル治療である経皮的脳血栓回収術による治療が可能な場合があります。治療が早ければ早いほど効果があると考えられています。
頸部内頸動脈ステント(CAS・カテーテル治療)
頸部内頚動脈の狭窄が脳梗塞の原因となり、かつ先に述べたCEAが適用できない場合に行われるのが、血管内治療です。この治療では、カテーテルを用いて頸動脈の狭窄箇所に特殊な金属製のメッシュ状の筒(ステント)を挿入し、血管を拡張して狭窄を改善します。ステントを留置した後は、血栓が形成されないように抗血小板薬を服用する内服治療も行います。
血管吻合術(バイパス術)
脳梗塞のリスクが高いとされる脳の動脈の狭窄や、既発の脳梗塞による動脈閉塞箇所において、正常な血管同士を結ぶ手術です。この手術により、新たに確立された血管から安定した血液供給が行われ、脳梗塞の発生を予防する効果が期待されます。
頸動脈血栓内膜剥離術(CEA)
脳の栄養を担う主要な動脈である頸部内頸動脈が動脈硬化により高度な狭窄を起こすと、脳梗塞のリスクが増します。このような状況においては、手術を通じて動脈硬化した領域を摘出し、血管の狭窄を解消する治療が行われます。症状が既に現れている場合や、頸部内頸動脈の狭窄率が50%以上である場合、または症状がなくても狭窄率が60%以上である場合には、薬物療法と併せてこの手術が行われ、脳梗塞の再発を効果的に予防することが実証されています。
リハビリテーション
脳梗塞で手足の麻痺や言語障害などの症状が出た場合、機能回復のためにリハビリテーションを行います。早期にリハビリテーションを開始することが症状の回復に最も効果的であると考えられています。また、リハビリテーションを継続することが症状の緩和に効果的な場合もあります。