緊張型頭痛とは
緊張型頭痛とは、左右の前頭部が締め付けられるような痛み、あるいは頭に重いものが乗っているような痛みのことをいいます。緊張型頭痛は最も一般的な頭痛の一種で、頭痛全体の約60%を占めます。緊張型頭痛の生涯有病率は30%から78%で、多くの人がこのような頭痛を経験しています。肩こりや首のこりが原因となることが多いのですが、痛みの原因は未だ解明されていません。
痛みには市販の鎮痛薬や頭痛薬が有効であるほか、頭痛体操やマッサージもこの頭痛には有効である場合が多いです。片頭痛と違って体を動かすことが可能で、筋肉の緊張がほぐれると痛みも軽減します。しかし、デスクワークが多かったり、スマートフォンを見る時間が長かったりすると、姿勢が固定され、首の周りの筋肉の動きが悪くなり、症状が悪化します。頭痛体操などの運動療法が有効ですが、継続が難しい場合は内服治療が中心となります。
ただし、鎮痛剤の飲みすぎは薬物乱用頭痛のリスクがあるので、頭痛が長期間続く場合は予防療法と他の治療法を併用していく必要があります。
緊張型頭痛の特徴
多くの場合、痛みは両側性で、圧迫感や締め付けられるような痛みが主であり、痛みの強さは軽度から中等度という特徴があります。さらに特徴的な点としては、通常は日常生活動作や運動によって悪化せず、発生すると頭痛は30分から7日間持続するという点があります。また、頭痛の発生頻度に応じて、稀発反復性、頻発反復性、慢性といった区分があり、治療方針は、これらの緊張型頭痛のどれに該当するかによって異なります。
緊張型頭痛の原因
緊張型頭痛は主にストレスが原因とされていますが、具体的な原因は未だに完全に解明されていません。現段階でわかっている主な原因は、末梢性疼痛メカニズムと中枢性疼痛メカニズムの2つです。
末梢性疼痛メカニズムでは、頭を支える肩から首にかけての筋肉が炎症によって痛んだり、緊張によって凝りが生じたりすることが緊張型頭痛の原因となります。姿勢や精神的なストレスが影響し、頸部周囲筋の緊張が高まると、徐々に積み重なり末梢性感作が起こります。これにより、小さな刺激でも痛みが発生し、頭痛の頻度や持続時間が増加し、薬が効きづらくなることで治療が難しくなる傾向があります。
また、時間的加重と空間的加重の現象も影響を与えており、同じ程度の痛みが短い間隔で長時間刺激される(時間的加重)と、痛みがより強く感じられます。同様に、同じ程度の痛みでも広い範囲で刺激される(空間的加重)と、痛みが増幅される特性があります。
中枢性疼痛メカニズムは、筋肉から(末梢)の痛みが長時間(時間的加重)または広い範囲(空間的加重)で持続すると、これらの刺激が脳の中で積み重なり、その結果、脳の神経(中枢)が少しの刺激でも敏感に反応し、痛みを感じやすくなる状態を指します。末梢性の痛み刺激が積み重なり中枢性感作が生じ、これが慢性緊張型頭痛を引き起こすメカニズムとされています。
睡眠不足もまた中枢性感作を促進する原因と考えられており、十分な眠りが得られない場合は、睡眠を整えるための薬を併用することが検討されます。眠りにくさや深い眠りの妨げが続く場合は、これらの薬を取り入れることで改善が期待されます。
緊張型頭痛の種類
緊張型頭痛は、頭痛の頻度や日数に基づいて分類され、以下の3類型に区分されます。
まず、月に1日未満(年間に12日未満)の頭痛がある場合は稀発反復性緊張型頭痛とされます。次に、3ヵ月以上にわたり月に1日から14日(年間に12日以上で180日未満)の頭痛がある場合は、頻発反復性緊張型頭痛とされます。そして、これよりも頭痛が多く、慢性的に続く場合は、慢性緊張型頭痛とされます。
稀発反復性緊張型頭痛
頭痛がまれにしか発症しないので、対症療法で症状が改善できます。心配であれば、鎮痛薬を服用することも考えられますが、非薬物療法として運動やストレッチなども有効です。
頻発反復性緊張型頭痛
1ヵ月に1日から14日(年間12日以上180日未満)、3ヵ月以上続く頭痛と定義されています。痛みは比較的頻繁に起こる傾向があり、鎮痛薬の使用が増える一方、運動やストレッチなどの非薬物療法も一時的な効果をもたらします。頭痛への対処が不十分で長期間放置すると、中枢性感作が起こり、症状が慢性化するリスクがあるため注意が必要です。
慢性緊張型頭痛
頭痛が月に15日以上(年間180日以上)起こる場合に慢性緊張型頭痛と診断されます。
頭痛自体の程度は中等度ですが、頭痛を感じやすく、軽い動作でも頭痛が起こり、その頻度も高く、日常生活に支障をきたします。鎮痛剤だけでは効果が持続せず不十分なため、頻回の内服が必要になることが多くなります。
片頭痛と同様、中枢性の感作状態によるもので、治療は長期戦となります。また、精神的に不安定になる患者様も多く、うつ病を合併することもあり、その治療も同時に必要となる場合もあります。
緊張型頭痛の診断・検査
緊張型頭痛の診断は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)に則って行います。症状に関する問診を通じて検証し、MRI検査などを実施して二次性頭痛の原因となる脳や頚椎に異常がないか確認します。同時に、頭痛が全身性の疾患に起因していないことを保証するため、血液検査なども実施します。
緊張型頭痛の治療
緊張型頭痛の方には3種類の治療法があります。急性期治療(痛みがあるとき)、予防治療(痛みを予防する)、非薬物治療(薬を使わない治療)です。肩や首の周りの筋肉が硬くなると頭痛が起こりますが、根本的に治療することは非常に困難です。肩こり体操やストレッチ、ヨガなどの運動は、ある程度頭痛をなくし、予防的な役割も果たしますが、痛みがひどくなると効果はありません。
まずは末梢性疼痛の仕組みに対する治療によって、痛みを抑えることが必要です。治療の基本方針は、鎮痛剤の内服で炎症や痛みそのものを抑えることであり、筋肉の緊張を和らげる薬を併用することも多いです。また、どの鎮痛薬が一番効くかは個人差があるため、ご自身に合った鎮痛薬を見つけることも重要です。
痛みが長期化し慢性化している場合、中枢性疼痛の仕組みに対する治療も不可欠です。この場合、脳の神経に作用して脳での痛みの知覚を抑える必要があり、ある程度の期間にわたり予防療法の薬を服用し、治療を行う必要があります。
急性期治療
急性期の治療には、アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症鎮痛薬(NSAIDs)などの経口鎮痛薬が最も効果的です。NSAIDsには多くの種類があり、ご自身に合った薬を見つけるためには、いくつかの薬を試してみる必要があるかもしれません。どのタイプの緊張型頭痛も、痛みに対しては内服治療が行われますが、稀発反復性の方は病院に行く必要がないため、市販薬を服用されることがよくあります。頻発反復性と慢性緊張型頭痛の方々は、多くが病院を受診されるため、痛みの頻度が徐々に増している傾向があります。このような頻繁な痛みを経験する頻発反復性の方や慢性緊張型頭痛の方には、予防療法が必要とされます。
予防療法
中枢性感作を抑える必要があるため、予防療法では三環系抗うつ薬であるアミトリプチリンが広く使用され、その有効性が高く評価されています。一定期間にわたり服用を継続し、中枢性感作を治療する必要があります。この際には副作用に留意しつつ、適切な管理が求められます。副作用が著しい場合には、他の安定剤に切り替えながら中枢性感作を制御し、脳の調子を整えるために治療は長期にわたります。治療の進捗は6ヵ月から12ヵ月ごとに評価し、継続の判断を行うため、焦らずに治療を続けることが大切です。
非薬物療法
非薬物療法には、精神療法、行動療法(筋電図バイオフィードバック療法、認知行動療法、リラクゼーション法など)、その他、多くの肩こりや頭痛のエクササイズを含む運動療法、理学療法などがあり、インターネットで多数の情報を見つけることができます。鍼灸療法も有効と考えられていますが、科学的根拠水準での評価はCとされています。
運動療法の多くは簡単に行うことができ、薬物療法との併用が推奨されています。緊張型頭痛におけるボツリヌス毒素による予防治療は、現時点では当該ガイドラインにおいて推奨されていません。